2026年(令和8年)10月1日から、パートタイム・有期雇用労働者を雇い入れるときの労働条件明示のルールが変わります。
新たに必要になるのは、正社員など通常の労働者との待遇の違いについて、内容や理由の説明を求めることができる旨を書面等で明示することです。厚生労働省のモデル様式・記載要領では、説明を求めるときの申出先も記載する形になっています。
会社で使っている「雇用契約書兼労働条件通知書」やパート・契約社員用のひな形は、施行日までに見直しておきましょう。
最初に確認
今回追加される明示事項は、すべての正社員に一律で追加されるものではありません。主な対象は、パート・アルバイトなどの短時間労働者と、契約社員などの有期雇用労働者です。
令和8年10月1日から何が変わる?
パートタイム・有期雇用労働法では、パート・有期雇用労働者を雇い入れたときに、通常の労働条件に加えて、次の4項目を書面等で明示することが求められています。
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 雇用管理の改善等に関する相談窓口
2026年10月1日以降は、ここへ次の内容が加わります。
| 2026年9月30日まで | 2026年10月1日から |
|---|---|
| 昇給・退職手当・賞与の有無、相談窓口 | 左記4項目に加え、待遇の相違の内容・理由等について説明を求めることができる旨 ※厚生労働省のモデル様式では申出先も記載 |
この追加明示をしなかった場合は、10万円以下の過料の対象となることがあります。
対象になる従業員は?
対象かどうかは、社内で使っている「パート」「アルバイト」「契約社員」といった呼び名だけでなく、実際の契約内容で判断します。
| 雇用形態・働き方 | 対象の考え方 |
|---|---|
| パート・アルバイト | 同じ事業主に雇用される通常の労働者より、1週間の所定労働時間が短い場合は対象 |
| 契約社員 | 契約期間の定めがある場合は対象。フルタイム勤務でも対象になり得ます |
| 無期雇用の正社員 | 今回追加される明示事項の直接の対象ではありません |
| 派遣労働者 | 派遣元事業主は、雇入れ時(雇用契約の更新時を含む)と派遣時に、待遇の相違について説明を求めることができる旨を明示する必要があります |
ここでいう雇入れ時には、有期労働契約の更新時も含まれます。10月1日以降に更新日を迎える契約がある会社は、新規採用分だけでなく、更新用の書類も確認しましょう。
雇用契約書・労働条件通知書にはどう書く?
厚生労働省のモデル労働条件通知書では、「その他」の欄に、通常の労働者との待遇の相違について説明を求めることができる旨と、その申出先を記載する形式になっています。
記載例
【待遇の相違に関する説明】
正社員との待遇の相違(内容・理由)について、次の窓口へ説明を求めることができます。
申出先:人事労務担当 ○○ ○○
連絡先:電話番号またはメールアドレス
法律により追加される明示事項は、待遇の相違の内容・理由等について説明を求めることができる旨です。法律で決められた一字一句の定型文があるわけではありません。厚生労働省のモデル様式・記載要領に沿う場合は、従業員が申出先を特定できるよう、部署名・担当者・連絡先も記載しましょう。
厚生労働省の記載要領では、「通常の労働者」を自社の呼び方に合わせて「正社員」などへ置き換えることができます。また、新しい説明の申出先と、従来の相談窓口が同じ場合は、相談窓口欄を「同上」とすることも可能とされています。
雇用契約書と労働条件通知書は同じもの?
労働条件通知書は、会社が労働者へ法定の労働条件を明示するための書類です。一方、雇用契約書は、会社と労働者が合意した契約内容を確認する書類です。
実務では、双方の役割をまとめた「雇用契約書兼労働条件通知書」を使う会社も多くあります。
- 兼用様式を使っている場合:その様式へ新しい明示事項を追加
- 書類を分けている場合:労働条件通知書や別紙など、対象者へ書面等で明示する書類へ追加
- 雇用管理システムを使っている場合:10月1日対応の様式へ更新されるか提供会社へ確認
古いWordファイルを複製して使っている会社では、正社員用、パート用、契約社員用、更新用など複数のひな形が残っていることがあります。修正漏れがないよう、保存場所も含めて整理しましょう。
令和6年4月からの明示・説明のルールも忘れずに
今回の変更だけを追加しても、ひな形全体が現在のルールに合っているとは限りません。2024年(令和6年)4月から、すでに次の明示事項・説明ルールが追加されています。
古いひな形で抜けやすい項目
- 就業場所・業務の「変更の範囲」
- 有期契約の更新上限の有無と内容
- 更新上限を新設・短縮するときの事前説明
- 無期転換申込権が発生する更新時の「無期転換申込機会」
- 無期転換後の労働条件
このうち、更新上限を新設・短縮するときの事前説明は、労働条件通知書へ記載する明示事項とは別に、あらかじめ理由を説明するルールです。
「2026年10月の一文は追加したけれど、変更の範囲や更新上限が書かれていない」という状態にならないよう、厚生労働省の最新モデル様式と自社の書類を見比べることが大切です。
一文を追加するだけでは終わりません
書類上は、法律で追加される「説明を求めることができる旨」を明示し、厚生労働省のモデル様式に沿って申出先も記載しておきましょう。ただし、従業員から実際に説明を求められた場合、会社は正社員等との待遇の相違の内容や理由、待遇を決める際に考慮した事項を説明する必要があります。
そのため、申出を受けてから慌てるのではなく、あらかじめ次のような待遇差を点検しておくことが重要です。
- 基本給・昇給・賞与・退職手当
- 通勤手当、家族手当、住宅手当などの各種手当
- 休暇・休職制度
- 福利厚生・教育訓練
- 評価制度や正社員転換制度
2026年10月1日からの同一労働同一賃金ガイドライン改正では、無事故手当、家族手当、住宅手当、病気休職・休暇、夏季冬季休暇、褒賞について、裁判例等を踏まえた判断例や留意点が追加・充実されます。待遇差を解消する際も、正社員の労働条件を引き下げることで整えるのではなく、パート・有期雇用労働者の労働条件の改善を図ることが求められます。
待遇に違いがあること自体が、直ちにすべて違法になるわけではありません。大切なのは、仕事の内容、責任、配置変更の範囲などに照らして不合理な差になっていないかを待遇ごとに確認し、説明できる状態にしておくことです。
また、説明を求めたことを理由に、解雇や契約更新拒否などの不利益な取扱いをすることは禁止されています。
施行日までに会社が準備したい7つのこと
- 対象者を洗い出す:パート、アルバイト、有期契約社員、更新予定者を確認する
- すべてのひな形を探す:新規採用用、更新用、店舗・部署別の書類を一覧にする
- 最新モデルと比較する:2024年改正分を含めて不足項目を確認する
- 申出先を決める:担当者、部署、電話番号、メールアドレスを明確にする
- 待遇差を点検する:正社員と非正規雇用労働者の賃金・手当・休暇・福利厚生を比べる
- 説明資料を準備する:待遇の目的、決定基準、職務や責任の違いを整理する
- 現場責任者へ共有する:申出を受けたときの取次方法と不利益取扱いの禁止を伝える
書類を修正する担当者と、実際に説明する担当者が別の場合は、申出を受けてから回答するまでの社内フローも決めておくと安心です。
よくある質問
現在働いている従業員の契約書も、10月1日に一斉に作り直す?
今回の追加明示は、雇入れ時(有期労働契約の更新時を含む)が対象です。施行日だけを理由に、既存の契約書を一律に再締結する制度ではありません。ただし、10月1日以降に採用・更新する対象者には新しい様式を使用しましょう。また、説明の求めがない場合でも、契約更新時などに、待遇差の資料を渡したり、説明を求めることができる旨と申出先を周知したりすることが望ましいとされています。
説明を求められたら、書面で回答しなければならない?
2026年10月1日からは、「資料を活用して口頭で説明する方法」または「説明すべき事項をすべて記載した分かりやすい資料を交付する等の方法」のいずれかにより説明します。口頭で説明する場合は、使用した資料も交付することが望ましいとされています。誰と比較し、どの待遇について、何を根拠に説明したかは社内記録に残しておくとよいでしょう。
相談窓口と説明の申出先は同じ担当者でもよい?
同じ窓口でも差し支えありません。厚生労働省のモデル様式では、申出先と相談窓口が同じ場合、相談窓口欄を「同上」等と記載できます。従業員が窓口を特定できるよう、部署名・担当者・連絡先を明確に記載しましょう。
まとめ|ひな形の差替えと、待遇差の説明準備をセットで
2026年10月1日から、パート・有期雇用労働者の雇入れ時(有期労働契約の更新時を含む)には、正社員等との待遇の相違について説明を求めることができる旨を明示する必要があります。厚生労働省のモデル様式に沿って、申出先も記載しましょう。
まずは、会社で使っている雇用契約書・労働条件通知書を最新の厚生労働省モデルと見比べ、対象者用のひな形を差し替えましょう。
そして、文言を追加するだけでなく、賃金・手当・休暇・福利厚生などの違いを確認し、「なぜこの待遇になっているのか」を説明できる状態にしておくことが大切です。
※本記事は2026年9月11日時点の法令・厚生労働省公表資料をもとに作成しています。個別の雇用形態や社内制度に応じた対応は、所轄の労働局または専門家へご確認ください。